
はじめに:「人権」は会社の「健康」
「ビジネスと人権」と聞くと、少し身構えてしまうかもしれません。しかし、これは決して一部の専門部署や海外サプライヤーだけの話ではなく、すべての企業に関わる、いわば会社の「健康」についての話です。
サステナビリティを重視する経営が当たり前となった今、従業員を含めたサプライチェーンの人権尊重を確保し続ける企業でなければ信頼されることはありません。この記事では、「ビジネスと人権」への取り組みを企業の「健康診断」にたとえ、その基本的な考え方とエッセンスを、分かりやすく解説します。より専門的な説明は人権デュー・ディリジェンスとは?企業が取り組むべき対応と最新動向をご参照ください。
「ビジネスと人権」3つの基本ステップ ~組織の健康を守るサイクル~
企業が組織の健康、すなわち人権を守り育むためには、大きく3つのステップがあります。これは、人が健康を維持・向上し続けるためのサイクルと類似しています。
ステップ1:人権方針の策定(健康を宣言する)
まずは「私たちは、関わるすべての人の人権を大切にします」という会社の基本姿勢を、社内外に明示することから始まります。これを「人権方針」と呼びます。
まずは意思をもって「健康」を目指すことを周囲に宣言することが肝要です。取締役会レベルの決議で経営トップが本気で宣言をすることで、会社全体が同じ方向を向くための土台ができます。
ステップ2:人権デュー・ディリジェンス(定期健康診断を受ける)
次に、自社の活動の中に、従業員を含むサプライチェーン全体に関わるステークホルダー人権を侵害するリスクが隠れていないか、定期的に確認・評価するプロセスが必要です。これが「人権デュー・ディリジェンス」です。
これはいわば、年に一度の「定期健康診断」です。自覚症状がないうちに病気の芽を見つけるように、潜在的な人権問題のリスクを早期に発見し、大きな問題になる前に対策を打つために行います。
ここで重要なのは、発見した問題の大小にかかわらず、対策や今後の方針とともに公表することです。基本的には、リスクがゼロであることはありえないといっていいでしょう。自社の健康状態を定期的に開示する自体が、企業の人権方針に対する信頼向上に繋がります。
ステップ3:是正・救済措置(治療と再発防止)
健康診断で問題が見つかった箇所には治療が必要です。同様に、人権に関する問題が起きてしまった場合、被害を受けた人が安心して声を上げられ、適切に救済される仕組みを整えなければなりません。
これは「治療と再発防止のプラン」にあたります。企業内に設置される相談窓口は、体調不良の時に頼れる「保健室」や「かかりつけ医」の役割を果たします。また、起こった問題に対処する「対処療法」としての対応だけではなく、なぜそれが起きたのかを考え、二度と繰り返されないように組織の体質を改善していくことが重要です。
人権リスクの健康診断「人権デュー・ディリジェンス」の調査項目とは
では、ステップ2の「健康診断(人権デュー・ディリジェンス)」では、具体的に何を調査するのでしょうか。診断のポイントは、顕在化している症状だけでなく、その背景にある組織の「体質」まで深く探る点にあります。
検査項目①:人権リスク(自覚症状と検査数値)
パワハラやセクハラといったハラスメントや、長時間労働といった人権リスクについて、「自覚症状」と「客観的な検査数値」の両面からチェックします。
・自覚症状はあるか?(リスク認知度) 従業員自身が「これは問題だ」と感じているか、リスクへの感度を調べます。
・検査数値は正常か?(リスク顕在度) 実際に職場で問題行動が「起きているか」どうか、その発生頻度を測定します。
この両方を測ることで、組織の健康状態をより正確に診断することができます。
検査項目②:組織の「体質」(ストレスレベルと生活習慣)
病気の根源が生活習慣などにあるように、人権問題の背景には組織の「体質」が関係しています。対処療法にとどまらずに根本的解決を目指すために、以下の2つも測定します。
・職場の心理的安全性 :「ミスをしても大丈夫」「反対意見にも耳を傾けてもらえる」といった、職場の心理的安全性(風通しの良い職場かどうか)を測ります。ストレスが多く風通しの悪い職場は、病気が発生・悪化しやすい不健康な体質と言えます。
・無意識のクセ(アンコンシャスバイアス):「男性だから」「女性だから」といったジェンダーに起因する考え方に代表される、誰もが持つ無意識の思い込みや偏見のことです。「自分は丈夫だから大病にかからない」と思ってしまう正常性バイアスや、「女性は結婚したら子供を産むもの」といったステレオタイプのように、無意識のクセが差別やハラスメントといった深刻な問題を引き起こす原因になり得ます。
・無意識のクセ(アンコンシャスバイアス):「男性だから」「女性だから」といったジェンダーに起因する考え方に代表される、誰もが持つ無意識の思い込みや偏見のことです。「自分は丈夫だから大病にかからない」と思ってしまう正常性バイアスや、「女性は結婚したら子供を産むもの」といったステレオタイプのように、無意識のクセが差別やハラスメントといった深刻な問題を引き起こす原因になり得ます。
人権デュー・ディリジェンスの結果を組織改善に活かす
健康診断の結果表を正しく読み解き、次のアクションにつなげることが大切なように、人権デュー・ディリジェンスの結果も組織改善に活かしてこそ意味があります。
診断結果は、縦軸に「自覚症状(リスク認知度)」、横軸に「検査数値(リスク顕在度)」をとったマップで示されます。
・最も危険なのは「自覚症状はないのに、検査数値が悪い」状態 これは、問題が起きているのに誰もそれを問題視できていない、いわば「サイレントキラー」が潜んでいる状態です。放置すれば深刻な事態になりかねず、最優先での「精密検査」と「治療」が必要です。
・「自覚症状もあり、検査数値も悪い」状態 多くの人が問題を認識し、実際に多発している状態。すぐに「治療」を開始する必要があります。
・「自覚症状はあるが、検査数値は低い」状態 リスクへの感度が高く、予防ができている「健康的な状態」です。この良い状態を維持することが目標となります。
さらに、組織体質の診断で「E判定(要精密検査)」のような悪い評価が出た場合は、専門家の助けも借りながら、食事改善や運動習慣を取り入れるように、組織風土そのものを見直す「根本的な体質改善」に取り組む必要があります。
おわりに:人権尊重を、当たり前の「健康文化」に
「ビジネスと人権」への取り組みは、企業の「健康管理」そのものです。
健康診断を一度きりではなく、定期的に受信し日々の生活習慣を見直すように、継続的に自社およびサプライチェーンを見つめ直し、改善していく活動です。
とはいえ、実際に行うとなれば調査の内容や方法が専門的で難しいと感じられるかもしれません。
国連や経済産業省においても、必要に応じて第三者の支援を受けることを推奨しています。
株式会社リンクソシュールでは人権DDデジタルサーベイによって、網羅的なリスク評価・効率的な全数調査・本質的なリスクの根本解決で、実効性の高い人権デュー・ディリジェンスを実現をご支援してします。
人権尊重における取り組みについて、お困りの点やご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。