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人権デュー・ディリジェンスとは?企業が取り組むべき対応と最新動向

企業活動における人権尊重の重要性が高まる中、事業やサプライチェーン全体での人権リスクを特定し、対策を講じる「人権デュー・ディリジェンス」が注目されています。​本記事では、その概要、企業が取り組むべき具体的な対応策、そして最新の動向について解説します。

なぜ今、人権デュー・ディリジェンスが重要なのか?

企業のグローバル展開が加速し、サプライチェーンが世界中に広がる中で、「ビジネスと人権」はもはや経営課題の一つとして、あらゆる業種にとって無視できないテーマとなっています。その中核を成すのが「人権デュー・ディリジェンス(HumanRightsDueDiligence:人権DD)」です。
▼ビジネスと人権についての詳しい記事はこちら▼ビジネスと人権とは?企業が果たすべき責任と対応策

企業が自らの事業活動やバリューチェーンを通じて人権侵害を引き起こさないよう、リスクを特定・評価し、予防・是正措置を講じるというこのプロセスは、国際的に広く受け入れられた企業の責任とされ、企業の社会的責任(CSR)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも極めて重要視されています。

人権デュー・ディリジェンスとは

人権デュー・ディリジェンスは、国連が2011年に採択した「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」を基盤とした考え方です。UNGPsは、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、被害者の救済へのアクセスという「保護・尊重・救済」の3原則から成り立っており、その中で企業に対しては、自社やサプライチェーンを通じて人権侵害が起こる可能性を定期的に評価し、対策を講じることを求めています。

このプロセスは、単にコンプライアンスのための形式的な手続きではなく、企業が社会的信頼を維持し、持続可能な成長を遂げていくうえで不可欠な戦略です。とりわけ、ESG投資の拡大に伴い、人権への対応は企業評価の重要な指標とされており、投資家や金融機関にとっても重要な意思決定要素となっています。

注目される背景

こうした人権デュー・ディリジェンスへの関心が高まっている背景には、経済のグローバル化が深く関係しています。1990年代以降、多国籍企業の台頭とともに、サプライチェーンは法制度が未整備な途上国へと拡大していきました。その結果、児童労働や強制労働、劣悪な労働環境など、社会的弱者が深刻な人権侵害にさらされる事例が相次ぎました。先進国の企業や消費者が、こうした不適切な労働条件のもとに生産された製品や原材料に依存していた事実が明るみに出るにつれ、企業に対する倫理的責任と透明性の要求が高まっていったのです。

これを受けて、国連は2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択し、各国政府や企業に対し、人権尊重を制度化するよう促しました。この原則は、世界的な法制度整備のきっかけとなり、現在では欧州を中心に、EUの「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)」などの新たな法規制が導入され、企業に法的義務としての人権デュー・ディリジェンスの実施を求める動きが強まっています。

日本においても、2022年に政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が示すように、国内外を問わず人権への配慮が企業にとって不可欠な要件となっています。企業は今後、単なる善意の活動としてではなく、事業継続や国際的競争力の維持の観点から、人権リスクの特定と管理を経営戦略に組み込む必要があります。

また、ESG投資の拡大により、企業の人権対応は金融市場でも重要な評価基準となりつつあります。投資家は、人権リスクを軽視する企業への投資を避ける傾向が強まり、企業は資金調達や株主対応の場面でも、人権対応の有無が問われるようになっています。

加えて、人権侵害が発覚した場合の企業リスクも深刻です。社会的非難だけでなく、訴訟リスク、株価下落、ブランドイメージの毀損など、企業活動に直接的なダメージを与える要因となることが明白です。

人権デュー・ディリジェンスの基本プロセス

企業が人権尊重の責任を果たすうえで不可欠なのが、人権DDの実施です。これは、自社やサプライチェーンにおける人権リスクを把握し、未然に防ぐための継続的な取り組みであり、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に基づく国際基準でも求められています。人権DDは単なる調査ではなく、具体的な行動と改善を含む一連のプロセスです。

人権デュー・ディリジェンスの4ステップ

企業がグローバルに事業を展開する現代において、「人権を尊重する経営」は持続可能な企業活動の前提条件となりつつあります。国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に基づき、多くの国や地域で法規制が進むなか、企業には人権デュー・ディリジェンスの実施が強く求められています。その基本的な流れは、4つのステップに整理することができます。

リスクの特定

最初のステップは、企業活動に伴う人権リスクの洗い出しです。特に注意すべきは、サプライチェーン上で発生する児童労働や強制労働、労働環境における長時間労働や差別、ハラスメントの問題、さらには環境権に関わる環境破壊による住民の生活権の侵害などです。これらのリスクは、直接的な事業活動だけでなく、取引先や下請けを含む幅広い関係先に存在するため、広範かつ深い視点で評価する必要があります。

対策の実施

リスクを特定した後は、それに対する具体的な対策を講じる段階です。たとえば、労働環境の改善としては、安全衛生管理の徹底や過重労働の抑制、職場の多様性推進などが挙げられます。契約の適正化では、取引先に対して人権尊重条項を契約に盛り込み、責任の明確化を図ります。さらに、研修やガイドライン整備などの予防策の導入によって、組織全体に人権意識を根付かせることが重要です。

モニタリングと情報開示

対応策の効果を把握するには、定期的なモニタリングが欠かせません。KPI(重要業績評価指標)を設定し、目標に対する進捗状況を評価することで、継続的な改善につなげることができます。また、ステークホルダーとの対話も重要です。従業員、取引先、地域住民、投資家など、多様な立場の人の声を取り入れることで、より実効性のある取り組みが実現できます。これらの情報は積極的に外部に開示し、透明性を高めることが信頼の構築に寄与します。

是正措置の実施

万が一、人権侵害が発覚した場合は、迅速な是正措置が求められます。被害者への謝罪や補償だけでなく、問題の原因を特定し、再発防止策を講じることが不可欠です。また、内部通報制度や苦情処理メカニズムを整備することで、問題を早期に把握し対応する体制を構築できます。

企業が直面する主な人権リスク

企業が人権を尊重し、リスクを未然に防ぐ取り組みが強く求められる時代になりました。グローバル化により企業活動の範囲は拡大し、それに伴って人権侵害のリスクも多様化・複雑化しています。特に、サプライチェーン全体に目を向けると、企業の直接的な管理下にない領域でも深刻な人権課題が潜んでいます。

また、自社の従業員に対する配慮も不可欠であり、安心して働ける職場づくりや、多様性を受け入れる文化の醸成が求められています。ここでは、企業が実際に直面し得る主な人権リスクについて、サプライチェーンと社内の両面から解説します。

サプライチェーンのリスク

グローバルなサプライチェーンにおいて、最も懸念されるのが強制労働や児童労働の存在です。特に発展途上国では、法整備や監督体制が不十分なことから、工場や農場での過酷な労働が常態化しているケースもあります。安価な製品の背景には、子どもや社会的弱者が搾取される構造があることも多く、企業がその事実を知らずに取引を続けることで、人権侵害に加担するリスクが生じます。

また、労働環境の悪化も深刻な問題です。安全基準が未整備で事故が頻発する現場や、最低賃金を下回る賃金水準、極端な長時間労働などが指摘されることもあります。こうした状況は労働者の健康と尊厳を損なうだけでなく、企業のブランド価値をも損ねる結果につながります。

さらに、近年注目されているのが環境権の侵害です。たとえば、製造過程での有害廃棄物の排出や海洋プラスチックの流出、森林破壊などは、周辺地域の住民の生活環境や健康に直接影響を及ぼします。これらは単なる環境問題にとどまらず、「安全に暮らす権利=人権」を侵害する行為であると捉えられています。

加えて、日本企業にとって見逃せないのが、移民労働者や外国人労働者に関する課題です。言語や文化の壁、法的地位の不安定さから、彼らは不利益な扱いを受けやすい立場にあります。不当な労働契約、賃金の未払い、生活支援の不備などが表面化すれば、重大なリスクとなり得ます。

自社従業員の人権問題

サプライチェーンの外部リスクに加えて、自社の従業員に対する人権尊重も非常に重要です。まず課題となるのは、職場環境における問題です。ハラスメントの未然防止や、従業員のワークライフバランスの確保ができていない企業は、従業員の離職やモチベーション低下を引き起こし、長期的な事業運営にも悪影響を及ぼします。労働時間の管理、メンタルヘルスケア、柔軟な働き方の推進などが求められる時代です。

また、企業の持続的成長に欠かせないのがダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進です。性別・年齢・国籍・障がいの有無といった属性に関係なく、すべての人が公平に働き、評価される環境を整えることが重要です。男女間の賃金格差の是正や、障がい者の積極的な雇用、多様な価値観を尊重する組織風土の醸成は、企業の競争力と信頼性を高める要素でもあります。

企業が実施すべき具体的な対応策

企業の人権尊重に対する社会的期待は年々高まりを見せています。国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」をはじめとする国際的な枠組みが整備され、EUでは人権DDの法制化も進行中です。

こうした中で、企業がただ「人権を尊重する」と表明するだけでは不十分であり、具体的かつ実効性のある対策を講じることが求められています。ここでは、企業が取り組むべき代表的な人権対策を3つの観点から整理し、その実践方法を解説します。

人権ポリシーの策定と情報開示

まず最初のステップとして必要なのが、国際基準に沿った人権ポリシーの策定です。国連の指導原則やOECD多国籍企業行動指針に基づき、企業がどのような方針で人権を尊重し、具体的に何に取り組むのかを明確に定め、公表することが重要です。このポリシーは単なる社内文書ではなく、社会に対するコミットメントの表明でもあり、外部のステークホルダーに対する透明性を高める効果があります。

また、ポリシーを機能させるためには、取引先への人権尊重の要求も不可欠です。取引契約に人権に関する条項を盛り込むことで、サプライチェーン全体に対する責任を果たす姿勢を示すことができます。あわせて、従業員に対する人権教育のプログラムも実施し、企業全体での意識向上と行動変容を促すことが効果的です。特に、現場で判断を下すマネジメント層には、具体的な事例を通じた実践的な教育が求められます。

サプライチェーンの監査と管理

次に、企業が人権リスクに直面しやすい領域であるサプライチェーンの監査と管理が重要です。自社が直接コントロールできないサプライヤーの現場では、強制労働や児童労働、劣悪な労働環境といった人権侵害が発生するリスクが高いため、継続的なリスク評価が欠かせません。主要サプライヤーについては、人権リスクや国・地域ごとの法制度の整備状況などをもとに評価を行い、優先的に対応する必要があります。

その上で、実効性を高めるには、人権デュー・ディリジェンスプログラムの導入が有効です。このプログラムでは、第三者機関による監査を活用し、労働環境や契約遵守の状況を定期的に評価します。結果に基づいて改善勧告を行い、必要に応じて指導・教育を実施することで、持続的にリスクを軽減する仕組みを構築できます。加えて、取引先との対話を通じて相互理解を深めることで、サプライチェーン全体の人権意識向上につなげることが可能です。

ステークホルダーとの対話

企業が人権課題に真摯に向き合う姿勢を示すうえで、ステークホルダーとの継続的な対話も欠かせません。投資家、消費者、NGO、地域住民といった多様な立場の声を取り入れることで、企業の取り組みの透明性と正当性が高まり、リスク対応力も向上します。

特に投資家に対しては、ESG評価の一環として人権対応への関心が高まっており、人権報告書を定期的に公開することで、説明責任を果たすとともに信頼性を高めることができます。報告書では、ポリシーの内容、リスク評価の方法、監査の結果、是正措置の実施状況などを網羅的に掲載することが望まれます。

また、消費者とのコミュニケーションにおいては、倫理的消費やサステナブルなブランド選好が広がる中で、企業が人権をどう扱っているかが購買行動にも影響するようになっています。オープンな姿勢で情報を発信し、フィードバックを反映することで、ブランド価値の向上にもつながります。

リンクソシュールの支援

ここでは、当社リンクソシュールが行うビジネスと人権に関するご支援内容について詳しくご紹介します。

当社が提供する「人権DDデジタルサーベイ」は、網羅的・効率的・本質的に実効性のある人権デューデリジェンスを実現するサービスです。

まず特徴的なのが、網羅性です。グローバルスタンダードの26類型人権リスクをすべてカバーし、人権リスクの「発生度」だけでなく、「理解度」まで調査することによる正確なリスクを評価することができます。

2つ目は効率性です。本社・グループ、一部サプライチェーンを含めた一括の全数調査が可能です。また、経年変化による持続的なモニタリングをすることにより、継続的かつサステナブルな人権デュー・ディリジェンスを実現します。

3つ目は本質性です。心理的安全性、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の定量化により、リスクの根本原因を特定することができます。また、組織制度・風土の専門家による、実効的な企業変革・開示までワンストップで伴走します。

これらにより、表面的な対応ではなく、持続可能な人権デュー・ディリジェンスを実現します

人権DDデジタルサーベイが解決できる課題

人権DDデジタルサーベイによる人権DDのDX化によって、広範囲な調査の効率化とコスト削減を実現し、担当者のみなさんの負担を大幅に軽減します。また、従来の研修等では見えにくかった成果についても、定量的な評価指標(KPI)を設定することで、具体的な改善点の可視化が可能になります。さらに、専門家の知見を反映した、本質的なリスク評価ができる点も大きな特徴となります。

人権DDをより実効的に、そして持続的に推進するために、デジタルツールの活用は今後ますます重要になるでしょう。

まとめ:企業が今すぐ取り組むべきこと

企業の社会的責任が問われる今、持続可能な経営のためには人権への配慮が欠かせません。その第一歩となるのが、人権ポリシーの明確化です。自社およびサプライチェーン全体における人権リスクを把握し、国際基準に沿った方針を策定・公表することが、企業の信頼性を高める基盤となります。

次に重要なのが、リスク評価と継続的な監査です。定期的にサプライヤーや従業員の労働環境をチェックすることで、潜在的な人権侵害の予防・是正につながります。これを効率的に進めるためには、「人権DDデジタルサーベイ」などのデジタルツールの活用が効果的です。広範囲かつ複雑な調査を効率化し、実効性を高めることができます。

最後に、取り組みの成果を社会に伝えるためには、情報開示と透明性の確保が不可欠です。ステークホルダーとの対話を重ね、信頼関係を築くことが、企業価値の向上に直結します。

監修

SDGパートナーズ有限会社 代表取締役CEO 田瀬 和夫
SDGパートナーズ有限会社
代表取締役CEO
田瀬 和夫

1967年福岡県福岡市⽣まれ。東京大学工学部原子力工学科卒。
1992年外務省に入省。2001年より2年間、緒方貞子氏の補佐官として「人間の安全保障委員会」事務局勤務。
その後、国際連合事務局、デロイトトーマツコンサルティングの執⾏役員を務め、2017年9⽉に独⽴しSDGパートナーズを設⽴。
企業のサステナビリティ方針全体の策定と実施⽀援、SDGsの実装⽀援、ESGと情報開⽰⽀援、⾃治体と中⼩企業へのSDGs戦略⽴案・実施⽀援などをリードする。
また、2019年12⽉には事業会社であるSDGインパクツを設⽴し、実際に社会に持続的インパクトをもたらす事業へも参入。
さらに、2021年9⽉にはニューヨークのサステナブル・カフェ「Think Coffee」の⽇本誘致のためThink Coffee Japan株式会社を設⽴し、現在上記3社の代表取締役。
私⽣活においては9,000人以上のメンバーを擁する「国連フォーラム」の共同代表理事