
「今年の表彰式、誰が選ばれたか知ってる?」
「知らない。どうせまた、営業成績トップのあの人でしょ?」
もし、あなたの会社でこのような会話が聞こえてくるとしたら、その表彰制度は機能不全に陥っています。多くの企業で、表彰式が「シラけムード」や「出来レース」と揶揄されるイベントになってしまっているのが現実です。
なぜ、社員のモチベーションを上げるはずの施策が、逆効果になってしまうのでしょうか。
その最大の原因は、予算や手法(How)ばかりが議論され、「そもそも、なぜ表彰するのか(Why)」という目的が欠落していることにあります。
表彰制度は、単なる「ご褒美」を与える場ではありません。
経営がいま何を大切にし、どこへ向かおうとしているのかを伝える、強力な「メディア」なのです。
本記事では、失敗する表彰制度の共通点を解き明かし、社員の心に火をつけるための「コンセプト設計」と「カテゴリー戦略」の極意を、成功企業の事例を交えて解説します。
なぜ、あなたの会社の表彰は「シラける」のか?
表彰制度が形骸化する最大の原因は、「設計」の欠陥にあります。特に多いのが、経営が発信しているメッセージと、実際に表彰される基準が矛盾しているケースです。
これを「整合性の欠如」と呼びます。
例えば、経営トップが中期経営計画で「失敗を恐れずに挑戦しよう!イノベーションを起こそう!」と高らかに宣言しているとします。
しかし、実際の表彰式でスポットライトを浴びるのが、「ミスなく業務をこなし、堅実に予算を達成した人」だとしたらどうでしょうか。
社員は、「口では挑戦と言っているけれど、結局会社が評価するのは保守的な行動なんだな」と感じることでしょう。
このように、経営目標と表彰基準がズレていると、社員は混乱し、会社に対する不信感を募らせます。目的があやふやな表彰は、モチベーションを上げるどころか、百害あって一利なしなのです。
成功の鍵は「Why(目的)」からの逆算
では、どうすれば社員が納得し、熱狂する表彰制度を作れるのでしょうか。
成功の鍵は、「とりあえず表彰制度を作ろう」という手段(How)から入るのではなく、「何のために(Why)」から逆算して設計することに尽きます。
設計の第一歩は、現在の組織課題や、3年後に目指す組織像を定義することです。
「この表彰を通じて、どのような社員を増やしたいのか?」
「3年後、どのような組織風土になっていたいのか?」
この問いに対する答えこそが、表彰制度のコンセプトになります。
事例:東レ「はじめの一歩賞」の明確なWhy
東レ株式会社の事例は、この「逆算」が見事です。
同社は、2026年の創立100周年に向け、「イノベーションと挑戦の風土」を醸成したいという明確な課題(Why)を持っていました。
そこで導入されたのが「はじめの一歩賞」です。この賞の最大の特徴は、通常評価される「成果」ではなく、「成果が出る前のプロセス」や「挑戦した事実」そのものを評価基準にした点です。
「成功確実なこと」しかやらなくなる大企業病を打破するために、「挑戦への第一歩」を称える。このように目的と手段が合致しているからこそ、制度が強力なメッセージとして機能するのです。
組織能力を強化する「戦略的カテゴリー」の作り方
コンセプト(Why)が決まったら、次はそれを具体的な「賞(カテゴリー)」に落とし込みます。
ここで重要なのは、漠然とした「社長賞」や「優秀賞」でお茶を濁さないことです。自社が今、強化したい組織能力に合わせて、戦略的にカテゴリーを設計する必要があります。
ここでは、企業の持続的成長に必要な3つの能力(実行力、革新力、結束力)に基づいたカテゴリー戦略を紹介します。
【実行力】「縁の下の力持ち」に光を当てる(安全・品質)
派手な売上成果だけでなく、組織の屋台骨を支える地味な貢献に光を当てる設計です。
特に製造業やインフラ企業において、「安全」は最重要価値ですが、「何も起きないこと(事故ゼロ)」が成果であるため、日常的には評価されにくい側面があります。
三菱ケミカルグループ「環境安全表彰」:環境と安全を守る活動を最上位の価値として称賛しています。
王子ホールディングス「グループCEO安全表彰」:トップが直接関与することで、安全へのコミットメントを全社に示しています。
こうした表彰は、組織の規律と品質を守る「実行力(Execution)」を強化します。
【革新力】「失敗した挑戦」こそを称える(プロセス評価)
イノベーションの最大の敵は「失敗への恐怖」です。
新しい価値を生み出すためには、結果の成否を問わず、果敢に挑んだ姿勢そのものを称えるカテゴリーが有効です。
サントリーホールディングス「有言実行やってみなはれ大賞」:創業精神を冠し、高い目標に挑んだプロセス自体を評価することで、失敗を許容する文化を作っています。
【結束力】チームワークと「らしさ」を称える(エンゲージメント)
個人のスタープレーヤーだけでなく、組織の連携や、企業独自の価値観(バリュー)を体現した行動を称えます。
サイボウズ「チームオブザイヤー」:個人の成果ではなく、「チームワーク」こそが賞賛されるべき価値であることを明示しています。
ANAホールディングス「ANA's Way AWARDS」:グループの行動指針を体現した行動を表彰し、ブランドの一体感を強化しています。
納得感と文化を作る「ネーミング」と「透明性」
最後に、制度の「見せ方」における重要なポイントをお伝えします。
ネーミングは「文化の記号」である
賞の名称(ネーミング)は、単なるラベルではありません。「わが社は何を大切にしているか」を表すキャッチコピーです。
サイボウズの事例は非常にユニークです。
「連携マスター賞」:部署の垣根を超えた連携を評価。
「グルメ王」:一見業務と無関係ですが、「多様な個性を認める」という同社の文化を象徴しています。
ありきたりな名前ではなく、その会社らしいユニークなネーミングは、従業員に「あ、この会社らしいな」という愛着を抱かせます。
プロセスを透明化する
どんなに立派な賞でも、「なぜあの人が選ばれたのか分からない」という不透明性は、制度への信頼を一瞬で破壊します。
評価基準(ルーブリック)を事前に公開し、誰がどのような手順で決めているのかを可視化すること。これが「納得感」の正体です。
まとめ:表彰制度は「経営メッセージ」そのものである
社内表彰制度について、私たちはセミナーなどでこのようにお伝えしています。
「社内表彰制度。それは、企業が従業員に対して『あなたを見ています』『あなたの仕事を誇りに思います』と伝える、最も雄弁な愛のメッセージである。」
表彰制度は、単なる福利厚生イベントではありません。
企業のコア・バリューを植え付け、未来の企業価値を創造するための「投資」であり、高度なマネジメント・システムです。
「なぜ表彰するのか(Why)」を定義し、戦略的に設計された表彰制度は、組織を内側から熱くし、持続的な成長への強力な推進力となるでしょう。
まずは、貴社の表彰制度に「魂(Why)」が入っているか、問い直すことから始めてみませんか。
リンクソシュールでは以下のようなセミナーを開催するとともに、個別での支援事例紹介も行っております。是非お気軽にご相談ください。
社内表彰や行動変革に繋げるMVV浸透の関連セミナーはこちら
社内表彰やインナーブランディングの事例についてはこちらの記事をご覧ください。