
「社内表彰制度」と聞いて、どのような光景を思い浮かべるでしょうか。
永年勤続の表彰や、営業成績トップの社員への金一封授与といった、いわゆる「福利厚生」や「インセンティブ」の一環としてのイベントでしょうか。
もし、貴社の表彰制度が単なる「過去の功績へのご褒美」にとどまっているなら、それは経営資源の大きな損失かもしれません。
今、人的資本経営やESGへの注目が高まる中、社内表彰は「経営戦略を遂行するための強力なマネジメントツール」へと進化を遂げています。実際、日経225企業の約4割が統合報告書において自社の表彰制度に言及しているというデータもあり、投資家も「企業文化の健全性」を示す非財務指標として注目し始めています。
本記事では、社内表彰を「未来の企業価値への投資」と捉え直し、企業の「実行力」と「革新力」を高めるための戦略的な設計・運用手法について、上場企業の具体的な成功事例を交えて解説します。
なぜ今、表彰なのか?「未財務価値」を高める経営機能
企業価値を構成する要素は、大きく2つに分けられます。
売上や利益といった「財務価値」と、ブランドイメージや従業員エンゲージメント、組織風土といった「未財務価値」です。
財務価値は「過去の結果」であり、コントロールが難しい側面があります。
一方で、未財務価値は未来への投資であり、企業の活動次第で高めていくことが可能です。
この未財務価値を最大化する手段として、社内表彰が再評価されています。
組織の「暗黙知」を掘り起こすセンサー
組織の中には、数値化しやすい成果(氷山の一角)の下に、膨大な「暗黙知」が眠っています。
例えば、「目立たないが重要な業務プロセス改善」や「顧客のための献身的な行動」などです。これらは放置すれば埋もれてしまいますが、表彰制度という「仕組み」を使ってスポットライトを当てることで、組織全体の共有財産(形式知)に変えることができます。
つまり、現代の社内表彰とは、経営理念という抽象的なメッセージを、現場の具体的な行動へと「翻訳」し、組織全体にインストールする機能を担っているのです。
企業の「実行力」と「革新力」を加速させる戦略的設計
では、具体的にどのような表彰制度を設計すればよいのでしょうか。
重要なのは、「何を表彰するか」によって、組織のどの能力を伸ばしたいかを明確にすることです。
ここでは、企業の持続的成長に不可欠な「業務遂行力」と「イノベーション創出力」という2つの観点から、戦略的なアワード設計の事例を紹介します。
【業務遂行力】当たり前を称賛し、現場の「規律」と「品質」を守る
企業の屋台骨を支えるのは、日々の業務を確実・安全・効率的に遂行する「業務遂行力」です。特に、製造業やインフラ企業においては、「何も起きないこと(安全)」が最大の成果でありながら、日常的には評価されにくいという課題があります。
こうした「当たり前」の質の高さに光を当てることで、組織の規律と品質への意識を強化できます。
三菱ケミカルグループ「環境安全表彰」
同社では、環境安全活動方針に基づき、優れた成績を収めた職場や個人を表彰しています。企業の根幹である「安全」を最上位の価値として位置づけ、称賛することで、組織全体の意識を高く保っています。王子ホールディングス「グループCEO安全表彰」
海外・協力会社を含むすべての事業場を対象に、CEO自らが表彰状を手渡します。トップが直接関与することで、「安全こそが経営の最優先事項である」という強力なメッセージを全社に発信しています。
【イノベーション創出力】「結果」ではなく「挑戦」を称え、失敗を恐れない風土を作る
変化の激しい時代において、イノベーションは不可欠です。
しかし、多くの日本企業では減点主義が根強く、「失敗したら評価が下がる」という恐怖が挑戦を阻んでいます。
この壁を打破するためには、「成功した結果」ではなく、「挑戦したプロセス」や「最初の一歩」そのものを評価する設計が有効です。
東レ「はじめの一歩賞」
2026年の創立100周年に向けた風土改革の一環として新設されたこの賞は、成果の有無や規模の大小を問わず、「挑戦する意欲」や「プロセス」に光を当てています。
結果が出る前の「着想」や「行動開始」の段階を称えることで、「失敗しても良いからやってみよう」という心理的安全性を醸成し、初年度から想定を上回る190件のエントリーを集めました。サントリーホールディングス「有言実行やってみなはれ大賞」
創業精神である「やってみなはれ」を冠し、従来のやり方にとらわれないチャレンジングな活動を表彰しています。タイトル自体が強力なメッセージとなり、失敗を恐れず高い目標に挑む文化を支えています。
形骸化を防ぐ「運用」の技術~ストーリーで語り継ぐ~
素晴らしい制度を設計しても、運用で失敗すれば「また人事のイベントが始まった」と冷めた目で見られてしまいます。
表彰制度を形骸化させず、組織文化として定着させるための鍵は、「ストーリーテリング」にあります。
単に「〇〇さんが受賞しました」という事実だけでなく、その背景にある「苦悩」「工夫」「想い」をストーリーとして全社に語り継ぐことで、社員の共感と行動変容を促すことができます。
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日立製作所:世界中の社員を繋ぐ「インスピレーション」の共有
日立製作所では、グローバル表彰制度「Inspiration of the Year Global Award」において、従来の「受賞者だけが集まる式典」から、「全社員が参加できるオンラインイベント」へと大転換しました。
式典では、受賞者が自身の活動の背景にあるストーリーを語る「インスピレーショナル・スピーチ」を実施。単なる成果発表ではなく、日立のアイデンティティをどう体現したかという物語を共有することで、参加者アンケートで96%の満足度を獲得し、グローバルな一体感の醸成に成功しています。 -
日清食品ホールディングス:社員を「観客」から「当事者」へ変える演出
日清食品ホールディングスの「NISSIN CREATORS AWARD」では、表彰式を社内会議の延長ではなく、ドキュメンタリータッチの「特別番組」として制作し、受賞プロジェクトの裏側にある熱量を伝えました。
さらに、全従業員の投票で選ぶ「従業員特別賞」を新設。社員一人ひとりが「審査員」として他部署の取り組みを真剣に知るきっかけを作り、アワードを「自分ごと化」させることに成功しています。
まとめ:表彰は「未来の企業価値」への投資である
社内表彰は、単なる儀式でも福利厚生でもありません。
それは、企業が従業員に対して「あなたのことを見ています」「あなたの仕事を誇りに思います」と伝える、最も強力なメッセージです。
「実行力」を高めたいなら、地道な努力を称える。
「革新力」を高めたいなら、果敢な失敗を称える。
経営が「何を称賛するか」を明確にし、それを制度として運用することは、未来の企業価値を創造するための投資に他なりません。
まずは、貴社の表彰制度が「何のために」存在するのか、その目的を問い直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
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