
貴社の表彰制度は、未来の企業価値を創造していますか?
これまで「皆勤賞」や「営業成績トップ」が表彰の対象となってきました。しかし、人的資本が企業価値の源泉となる今、社内表彰は従業員へのインセンティブに留まらず、企業のビジョンと戦略を組織内外にまで伝達するための経営ツールへと進化しています。
各社が目指すビジョンや事業成功に直結する効果が求められる中、本記事では日本を代表する上場企業のユニークなアワード事例を、
①業務・事業遂行力
②イノベーション創出力
③ステークホルダー・エンゲージメント
という組織・経営能力を強化する3つの観点から解説します。
3つの組織・経営能力を強化する、戦略的アワード設計と企業事例
企業の持続的成長には、これら3つの組織能力のバランスが不可欠です。
1. 業務・事業遂行力を高める表彰
まず最初に、事業の基盤である業務を、確実・安全かつ効率的に遂行する「実行力」を強化する表彰を紹介します。従来型の表彰から一歩踏み込んで、自社が重点を置くより具体的なアウトプットを表彰し、取り組みを奨励していることが特徴です。
観点①:安全性
従業員と社会の安全を守る企業としての根幹を強化する。
事例:
三菱ケミカルグループ「環境安全表彰
同社グループの定める環境安全活動方針と計画について、環境安全に関して優れた成績を収めた職場、場所、個人を表彰
コムシスホールディングス「安全優良班長の表彰
グループ全体の安全を支える協力会社の現場責任者「班長」に焦点を当てた表彰制度。優れた取り組みを称え、その活動を共有することで、現場の士気と安全意識を高め、パートナーシップを強化し、安全文化を醸成する
王子ホールディングス「グループCEO安全表彰
海外・協力会社を含むすべての事業場の従業員を対象に、「無災害総労働時間」または「無災害継続年数」などを基準に表彰する。グループCEOから表彰状を手渡され、安全水準を全社メッセージとして伝える
観点②:技能向上
専門性と品質を高め、顧客からの信頼を獲得する。
事例:
京成電鉄「BMK優秀社員表彰
グループ54社、約23,000人向けに展開する「BMK(ベストマナー向上)推進運動」の一環として開催。BMK推進運動委員会委員長である代表取締役社長から表彰状が手渡される。
DOWAホールディングス「品質保証成果発表会
「品質」を経営の中核に据えて中期計画内でも目標を設定する一環として、日常のベストプラクティスや関わるメンバーの紹介、各部門の課題を共有する表彰
日東電工「三新世界大会」
「Nitto流イノベーションモデル」における事業化のフェーズで、最も優秀な新活動事例を表彰する。全グループ拠点から参加する「営業人財」が互いの取り組みから学び合う機会として活用されている。
観点③:DX(業務改善・セキュリティ)
デジタル技術を活用して業務プロセスを磨き上げ、生産性を向上させる。
事例:
関西電力「DXな人たち」
デジタルを「変革のコア」と捉える経営戦略における取り組み。グループ全体でのDX風土の醸成を目的とした「KANDEN Digital Day」を開催し、各部門でのDXを牽引した人を表彰
野村ホールディングス「サイバーに高い意識をもつ役職員の表彰」
サイバーセキュリティには技術的対策だけでなくカルチャーの醸成が必須と捉え、研修・訓練に加えて表彰を実施。平時の意識と実効性の強化にを行っている
2. イノベーション創出力を高める表彰
2つ目に、変化の激しい時代を勝ち抜くための組織力を強化する表彰を紹介します。実際に生み出された発明や改革を称賛するだけでなく、チャレンジすること自体を称揚するメッセージを発信することで、心理的安全性や自由な発想を持つ組織風土を醸成しています。
観点①:知的財産
技術的優位性の源泉となる発明やアイデアの創出を奨励し、企業の競争力を未来にわたって担保する。
事例:
カナデビア(旧 日立造船)「発明表彰制度」
エンジニアリングおよび製造技術を経営戦略に置ける重要課題と位置づけ、出願賞、登録賞、発明実施賞を設けて発明の価値に対する利益を保証することで発明を奨励する
JFEホールディングス「JFEスチール特許表彰」
社内発明者から応募された登録特許の中から、特許として優れ、さらに事業への貢献度および社会的評価が高いと認められる特許の発明者を表彰。同社は日経ビジネスの「特許価値成長力ランキング」で2025年4位
鹿島建設「社内表彰制度」
知的財産の分野において事業に対する顕著な貢献のあった発明や将来が期待される若手・中堅層の発明者などを社長が表彰
観点②:イノベーション・挑戦風土
失敗を恐れず挑戦する文化を醸成し、組織の活力を生み出す。
事例:
サントリーホールディングス「有言実行やってみなはれ大賞
創業精神である「やってみなはれ」をタイトルに置き、自ら旗を掲げ、従来のやり方にとらわれないまったく新しい発想に基づくチャレンジングな活動を表彰
関西電力「ええやん!エピソード表彰
組織風土改革として「ええやん!関電」をスローガンに掲げ、2300人が参加する全社イベント開催。「ええやん!」な職場や個人の取組みを讃える表彰
東レ「はじめの一歩賞
2026年の創立100周年に向けて社員全員が参加する「東レ社員フォーラム」の一環。成果ではなくプロセスに光をあて、活動規模の大小を問わず、挑戦する意欲を讃える表彰
観点③:理念浸透(挑戦を促す理念)
企業の存在意義やバリューを体現した挑戦を称賛し、組織の挑戦気運を高める。
事例:
日本ハム「シャウ-1グランプリ」
これまでの「シャウエッセン®」の枠を超えた新しい商品開発の提案の場として、「シャウ-1グランプリ」を開催。優秀な提案には金のシャウエッセン®トロフィーが贈られるとともに、商品化が進められる
日清食品ホールディングス「NISSIN CREATORS AWARD」
グループ理念である『EARTH FOOD CREATOR』の実現に向けて、同社の原点である「創造性」を発揮して優れた功績を残し、日清食品グループに大きく貢献した案件を表彰
日立建機「KENKI βUSINESS CHALLENGE(KβC)
新しい事業にチャレンジしたい人たちがチャレンジできること、グループ内の新しい事業のタネ・立ち上げられる人を探し、事業化まで結びつけることを目的としてビジネスコンテストを開催
積水ハウス「SHIP」
イノベーションを創発し続ける自律的な人財と組織の醸成を目的として、「イノベーションコンペ」と「技術功労賞」「業務功労賞」などの
3. ステークホルダー・エンゲージメントを高める表彰
最後に、従業員、顧客、社会、環境といった多様なステークホルダーとの信頼関係を構築し、企業の持続的成長の基盤を築く表彰を紹介します。社外に発信するビジョンやパーパスを取り組みとして体現することで、より強固なメッセージとして伝えることができます。
観点①:モチベーション・従業員エンゲージメント
最も重要なステークホルダーの1つである従業員の働きがいと貢献意欲を高める表彰
事例:
セコム「システム行動コンテスト
スタッフのモチベーションを高め、さらなるサービス向上につなげることを目的に、セキュリティスタッフがとるべき行動として独自に確立している「システム行動」について全国No.1を決める
安川電機「改善表彰」
業務効率の30%改善を目指す「KAIZEN30活動」の一環として、好事例の水平展開や賞賛と激励によるモチベーション向上を目指して表彰を実施
ヤマハ発動機「Yamaha Motor Global Award
ブランドや社員同士のつながりの強化、優れた活動の共有、モチベーションやエンゲージメントの向上を目的に、同社らしさを発揮して革新・改革を成し遂げた活動を表彰
ANAホールディングス「ANA's Way AWARDS
エンゲージメント向上を目指し、同社グループの行動指針「ANA's Way」に 基づき行動し、価値創造やブランド力の向上に貢献した取り組みを表彰
観点②:CSR/SDGs
社会課題の解決への貢献を可視化し、企業の社会的責任を果たす姿勢を示す。
事例:
イオン「"ダイ満足"アワード」(ダイバーシティ)
グループビジョンとして、ダイバーシティが生み出す、従業員とその家族、お客さま、会社の満足を"ダイ満足"として掲げ、年に1回の表彰によってグループ内での好事例の共有や競争意識を推進
大林組「協力会社優良自主管理表彰制度」(ウェルビーイング)
現場での施工管理や労務管理において、優良な自主管理を行った建築・設備の協力会社を表彰する。また、働き方改革を目的に協力会社向けに業務改善事例・提案を募集し、表彰
豊田通商「Be the Right ONEアワード」(カーボンニュートラル)
1年を通じて会社への貢献度が高かった組織や社員を表彰する制度である「Be the Right ONEアワード」に、カーボンニュートラルの実現に向けてモデルとなるような取り組みを表彰する「CN賞」を2024年度より追加
東急不動産ホールディングス「サステナブル・アクション・アワード」
全社方針である「環境経営」に基づいて社員一人ひとりが環境への理解を促進し、環境価値の機会創出につながる人財育成の一環として、事業活動を通じた環境・社会課題解決の具体的な取り組みを表彰
MS&ADインシュアランスグループホールディングス「MS&ADサステナビリティコンテスト」(サステナビリティ)
2030年に目指すべき社会像として「レジリエントでサステナブルな社会」を掲げ、国内外のグループ社員全員を対象にした「MS&ADサステナビリティコンテスト」を開催
分析:
これらのアワードは、非財務情報としての価値も高く、投資家や社会からの評価を高める上でも重要な役割を果たします。
観点③:社外パートナー
グループ会社、協力会社、地域のステークホルダーとの連携を再確認し、連携を強化する。
事例:
伊藤忠商事「事業会社表彰制度」
グループ経営活性化の促進を目的として、「稼ぐ」の観点・「削る」の観点の複数項目を達成した企業を表彰し、表彰式では受賞企業の役員と社員が喜びを 分かち合う
西日本旅客鉄道「優秀グループ会社表彰」
同社が価値創造の基盤とする情報セキュリティについて、特に顕著な成績を達成しているグループ会社を優秀会社として表彰
古河電気工業「パートナー評価・表彰制度」
「優秀パートナー賞」「グループ・グローバルパートナー賞」「ベスト・パフォーマンス賞」「特別賞」に加え、環境に対する功績に対し「環境賞」を表彰し、多面的な取組みを評価
東日本旅客鉄道「JR東日本地域共創アワード」
地域社会の持続的な発展につながる地方創生を推進することを目的に、同社グループが持つアセットを活用して、持続可能な地域づくりを進める地域の人を表彰し、その優れた取組みを広く発信
「表彰」の活用で経営メッセージを"実践"に、"カルチャー"に、"企業価値"に
あらゆる企業が、想いを込めた新たなメッセージを発信する時代に、どれだけ抽象的な言葉を重ねても真の共感にはなりません。本当に伝わるのは、それが社員の具体的な"行動"として目に見えたときです。
表彰・AWARDという施策には4点の特性があります
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「全社ゴト」という希少性
日常の企業活動は「分化」して動いており、通常であれば、巻き込みづらい全部門・全グループ・グローバルを対象とできる施策は稀であり、組織を統合する施策として貴重 -
「ポジティブ」な発信
アワード"を名目に、内外に対してのアプローチを行いやすい。また、内外から"ポジティブ"に注目してもらえる -
定期的に訪れるサイクリック性
サイクリックな仕組みとしやすく、環境変化に左右されることなく、体制構築や企画を立てやすい -
定量化によるPDCA
定期的かつ定量化がしやすく、年度での比較や目標設定が可能である前の年から企画の進化を目指すPDCAの力学を働かせやすい
この特性を活用し、経営メッセージを行動に繋げるために、改めて自社が軸とするパーパスとは何か、その実践にはどんな取り組みが必要かを考えてみてはいかがでしょうか
リンクソシュールでは以下のようなセミナーを開催するとともに、個別での支援事例紹介も行っております。是非お気軽にご相談ください
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