
AIの進化により、業務効率化が急速に進む一方で、組織のあり方や人の役割は大きく変わりつつあります。こうした時代に改めて注目されているのが「表彰式」という仕組みです。単なる称賛や労いの場にとどまらず、経営理念を浸透させ、組織文化を変革する装置として再評価されています。
本記事では、AI時代の組織変化と、表彰式が果たす5つの効果について解説します。
2025年、AIによる3つの組織変化
AIの導入が進むなかで、企業組織には次の3つの変化が訪れています。
意思決定の質と一貫性の重要性
AIは日々の業務判断から経営方針まで幅広く支援しますが、最終的に方向を定めるのは人間です。
経営理念や企業文化を社員一人ひとりが自分の行動に落とし込めるかどうかが、競争力の鍵となります。
人材の再定義と社会的役割
単純なタスクをAIが代替することで、人は「問いを創り出す存在」へと役割をシフトしています。
批判的思考力や創造性は、企業の枠を超え、社会に新しい価値を提供します。
企業はパーパス経営やESGへのコミットを通じて、個人の成長と社会貢献を両立させる場へ進化する必要があります。
統合的なコーポレートブランディング
情報が氾濫し比較が容易な時代には、企業のパーパス(存在意義)が社内外における重要な判断基準です。
顧客、従業員、採用候補者、投資家といった多様なステークホルダーに、一貫したメッセージを発信・体現することが不可欠となります。
パーパスを浸透させるための具体的な4ステップ
企業理念である「パーパス」を、抽象的なスローガンではなく、社員一人ひとりの行動にまで落とし込むためには、具体的な施策が必要です。
以下の4つのステップを踏むことで、パーパスを組織文化として定着させることができます。
現状を理解する - パーパスと行動のギャップを把握する
まず、社員の行動や思考が、どの程度パーパスに沿っているかを客観的に評価します。
アンケートやヒアリング、行動観察などを通じて、現状を正確に把握することが重要です。
このステップは、課題を明確にし、その後の施策の効果を最大化するために不可欠です。
理念に紐づく行動を発見する - 暗黙知を形式知へ
次に、パーパスを体現している具体的な行動事例を組織の中から探し出します。
これは、必ずしも大きな成果を出した行動でなくても構いません。
日常の些細な工夫や、チームを支えた行動など、「パーパスに繋がる良い行動」を積極的に見つけ出します。
行動に意味付けをする - 価値観を言語化する
発見した行動に対して、それがなぜパーパスに結びついているのか、その「意味」を明確にします。
例えば、「顧客のために粘り強く交渉した」という行動に対し、「顧客第一主義というパーパスを体現した素晴らしい行動だ」と意味付けをすることで、社員の行動が理念と直結していることを示します。
行動を称賛・応援する - 行動の連鎖を生み出す
最後に、意味付けされた行動を全社で称賛し、応援する仕組みを作ります。
表彰式や社内報、SNSなどを活用して成功事例を広く共有することで、その行動が「ロールモデル」となります。
これにより、他の社員も同様の行動を意識するようになり、パーパスを体現する行動の連鎖が生まれます。
これらを単発の施策として終わらせるのではなく、好循環を生むサイクルとして設計することが重要です。
▼好循環を生むサイクル設計の詳しい解説はこちら▼
MUFGが語る!パーパス経営のリアル ~社員と創るカルチャー改革~
社内表彰の5つの作用
パーパスの浸透のために、いま再注目されているのが「社内表彰」の活用です。
社内表彰は単なる「称賛・労いの場」ではなく、経営のメッセージを具体的な行動基準や判断基準として具現化し、企業文化を変革するための場として再評価されています。以下の5つの作用を理解し、戦略的に設計することが重要です。
全社員への経営メッセージ・カルチャーの共有
成果を出した社員やプロジェクトを「企業として評価・促進したい行動の例」と示すことで、経営理念をその言葉だけではなく具体的な行動や体験として浸透させることができます。
評価の透明性が高まることで模倣や横展開が促され、組織文化の一貫性を確立できます。
象徴的な行動の強化
表彰基準を具体的にし、戦略やバリューに直結させることで、「この行動を繰り返してほしい」という経営の意図を可視化します。
経験学習サイクルを活用し、他者の成功とそれに紐づく具体的な行動を見て学び合うことで、組織全体の行動が強化されます。
非金銭的報酬の効果
人は金銭的な報酬だけではなく「承認」や「称賛」といった「感情報酬」に強く動機づけられます。
コストをかけずとも、思いを込めたメッセージや、「こんなところまで見てくれていたんだ」という気付きは、全社員からの認知や所属感を高め、人間的な動機づけを引き出します。
ストーリーテリングによる文化の言語化
受賞スピーチや事例紹介は暗黙知を形式知に変換し、成功の再現性を高めます。努力や工夫の過程を共有することで、文化が実践知として定着します。
また、受賞者のヒーロー/ヒロインとしてのスピーチは、年次や役職の近い社員にとってリアルであり、先輩にとってはある種プレッシャー、そして後輩や同輩にとってはロールモデルとなります。
部署横断の学習機会
表彰式は部門横断で優良事例を学べる「実践的な研修」の場として定義することもできます。
健全な競争心と協働意識が生まれ、継続的な表彰行動を誘発します。組織全体の文化の醸成にもつながり、新しい知の交流と協働の契機となります。
さらに、企業価値向上のために社外への発信までをスコープに入れた社内表彰制度を、リンクソシュールでは「AWARD3.0」としています。
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よくある失敗パターン
表彰制度やアワードは、設計や運用を誤ると逆に組織文化を損ない、不信感や形骸化を招いてしまう諸刃の剣でもあります。
ここでは、企業が陥りがちな 5つの失敗パターン を具体的に整理し、それぞれがなぜ問題となるのか、どう改善すべきかを解説します。
価値基準の共有 ― 一貫性の欠如
選考理由が場当たり的で不透明だと「出来レース」「結局は上の判断次第」と見なされます。
評価基準を経営方針パーパスやバリューと紐づけ、評価に至った背景を明示することで、経営が示す価値観が体験として伝わります。
ポイント
・公平性や透明性が欠けると、社員の信頼を一気に失う可能性がある。
・「評価の背景を丁寧に伝えること」が、組織文化における価値基準の共通認識を育てる
象徴的な行動の強化 ― 基準が曖昧・恣意的
成果ばかりを評価し、取り組み過程が軽視されると、社員は「目立つ人が得をする」「取り組み過程には意味がない」と感じます。評価の理由に納得感がないと、不信感や冷笑文化を助長します。経営としては、戦略に直結する行動基準を明示し、選考プロセスを透明化するとともに、日々の行動に光を当て、見落としのない選考が必要です。
ポイント
・「成果だけ」ではなく「行動・プロセス」にもスポットを当てる
・表彰を通じて「経営が求める行動」を社員が具体的に理解できるようにすること
非金銭的報酬の効果 ― 形骸化した儀式
本気で称賛しない表彰は、社員の感情を逆なでし、パフォーマンスばかりを助長します。
表彰の場だけ盛り上げても、日常での承認がなければ効果は持続しません。経営層自らが心から称賛を示し、日常のマネジメントと一体化させなければ、動機づけの仕組みは形だけに終わります。
ポイント
・儀式的に形式だけで終わらせるのではなく、日常のマネジメントと結びつける
・社員は「心からの承認」によって、モチベーションを高めます。
ストーリーテリング ― 形式だけのスピーチ
形式的なスピーチでは、ロールモデルとしての学びが生まれません。
受賞者が自分の行動を理解し、背景を語ることで初めて、仲間にとってリアルな教科書となります。受賞理由や背景を具体的に提示し、経営自らがストーリーを承認することで、全社に共有知として浸透します。
ポイント
・「何をしたか」だけでなく「なぜそれが重要か」「どんな工夫をしたか」を語ること
・ストーリーは社員の共感を呼び、組織文化を構築する一助となる。
部署横断の学習機会 ― 身内イベント化
部署内だけの表彰は「内輪の盛り上がり」で終わります。他部門の取り組みを学び、交流の契機とすることが、組織全体の成長につながります。
オンラインツールを活用し全社的なイベントに位置づけることが肝要です。さらに、過度な競争が生まれてしまう場合には、「協力や支援行動」を評価カテゴリに含めることで協働文化を醸成できます。
ポイント
・部署横断での表彰は「知識共有の場」として大きな効果
・協力や支援行動を評価軸に含めることで「競争と協働のバランス」が取れる。
失敗パターンを回避するポイント
失敗パターンを避けるために、設計ポイントを押さえることが重要です。以下では、表彰式を組織価値の最大化につなげる 4つの実践的な視点 を解説します
見つける:現場の暗黙知の表出
優れた成果だけでなく、現場に眠るすべての「暗黙知」を見つけ出すこと。
ポイント
・目立つ成果や数字だけでなく、日常の努力や工夫の中にこそ学びがある
・「暗黙知」を掘り起こし、全社で共有することで、組織全体の成長につながる
語り継ぐ:共感を生むストーリーの伝承
事実の発表だけでなく、社内の共感・共鳴ストーリーで伝えること。
ポイント
・受賞理由を数字や事実だけで語るのではなく、「なぜその行動が価値を生んだのか」という背景を物語として伝える
・共感を呼ぶストーリーは、記憶に残り、次の行動への強力なインスピレーションとなる
繋げる:行動が新たな行動を呼ぶ連鎖
一部のハイパフォーマーのみで「分断」させず、次の誰かの行動に繋げて、変化の機運を創ること。
ポイント
・表彰を「特定の人だけのもの」とせず、次の挑戦者や新しい取り組みにつなげる
・「ロールモデルを起点に全員に広がる仕組み」を作ることで、持続的な文化醸成へ
拡げる:社内外への発信とブランド強化
社内外に取り組みを発信し、企業ブランドや採用力の強化へとつなげること。
ポイント
・資本市場へ開示することで企業価値を向上させる
・社内報や記事化で、社内の取り組みを社会的な評価に変える
リンクソシュールでは戦略・計画の全体設計から施策の実施まで一気通貫でご支援します
株式会社リンクソシュールでは、インナーブランディング・インナーコミュニケーションによる組織の風土・カルチャー変革を支援します。
20年以上の組織人事コンサルティングの実績をもとに、再現性と実行力を兼ね備えたサポートを提供しています。
社内表彰制度を「経営メッセージを体現する仕組み」とするための設計だけでなく、エンゲージメント向上・理念浸透・行動変容を実現するための企画・運用・社内発信まで、ワンストップでご支援します。

よくある質問
Q1. なぜ「AI時代」に改めて表彰式が重要になるのですか?
AIが業務を効率化する一方で、人の役割は「問いを創り出し、意味付けをする」ことにシフトしています。このような時代に、表彰式は単なる成果を称える場ではなく、経営理念や企業の存在意義(パーパス)を具体化し、社員の行動変容を促す重要な装置となります。人間にしか生み出せない創造性や協調性を育む上で、表彰式が果たす役割はより一層高まっています。
Q2. 従業員のモチベーション向上に、金銭的報酬ではなく「表彰式」が効果的なのはなぜですか?
人は金銭だけでなく、「承認」や「称賛」といった非金銭的な報酬によって強く動機づけられます。戦略的に設計された表彰式は、組織が社員一人ひとりの努力を正しく評価していることを示し、帰属意識や自尊心を高める効果があります。これはコストを抑えつつ、持続的なモチベーション向上に繋がります。
Q3. 表彰式を形骸化させないためには、どうすればいいですか?
表彰式を成功させるためには、以下の4つのポイントが重要です。
・全社的な統合: 部署内だけのイベントにせず、経営理念に紐づくメッセージとして位置づけ、全社で共有します。
・現場の暗黙知の表出: 目に見える成果だけでなく、日々の努力や工夫といった「暗黙知」を発掘し、評価します。
・共感を生むストーリー: 受賞理由だけでなく、その背景にある努力や葛藤をストーリーとして語ることで、他の社員の共感を呼び、行動のインスピレーションを与えます。
・行動が新たな行動を呼ぶ連鎖: 一部のハイパフォーマーだけでなく、表彰を「次の誰かの行動」に繋げる仕組みを構築します。