多くの企業が、社内表彰制度の導入効果を十分に得られていない現状があります。
「せっかく表彰制度を導入したのに、表彰自体が形式的なものになってしまっている」
「担当者に依存した制度設計になってしまい、会社全体に浸透していない」など、このような悩みを抱えている上場企業は決して少なくありません。
社内表彰制度は、社員に対するインナーブランディングとして、企業文化を浸透させたりするうえで非常に効果的な施策となり得ます。
しかし、その効果は制度設計の巧拙に大きく左右されることを忘れてはなりません。
本記事では、表彰制度の設計戦略、設計フロー、設計基準などを体系的に解説するとともに、実際に成功を収めている企業の制度設計事例を紹介し、効果的な制度運用のためのポイントも紹介します。
なぜ社内表彰制度に「設計」が重要なのか
表彰制度の設計が結果を左右する
表彰制度を設計する際、その目的やメッセージがあいまいなままだと、社員に浸透せず、形骸化してしまう可能性が高くなります。
つまり、表彰制度が単なる形式的なものとなり、社員のモチベーションや行動に影響を与えなくなってしまうのです。
そのため、表彰制度を構築する際の出発点として、「どのような社員を評価し、どんな行動を奨励したいのか」という設計コンセプトを明確にすることが非常に重要です。
具体的には、会社が求める理想的な社員像や、会社全体の目標達成に貢献する行動などを具体的に定義する必要があります。
設計に失敗する典型パターン
社内表彰制度の設計において、よくある課題として、 評価基準が属人的になってしまったり、エントリーの手続きが煩雑であったり、受賞結果に対する納得感が得られなかったり することがあります。
このような課題を解決し、効果的な社内表彰制度を構築するためには、「誰のための制度なのか?」という設計目標を明確に設定し、設計ガイドラインを文書化することが重要です。
設計目標を明確にすることで、制度の目的や対象者を明確にし、制度設計の方向性を定めることができます。
また、設計ガイドラインを文書化することで、評価基準や選考プロセスを明確化し、透明性や公平性を確保することができます。
成功企業の社内表彰制度導入事例
株式会社日立製作所:グローバルな価値観共有を目指した「ブランド表彰」改革
株式会社日立製作所では、グローバル規模でのブランド価値向上と、企業アイデンティティの浸透を目的に、
社内表彰制度「Inspiration of the Year Global Award 2020」を大幅に刷新しました。
これは、全世界の社員に「日立グループ・アイデンティティ」を共有・体感してもらうことを狙った取り組みです。
新型コロナウイルスの影響下、初めてのオンライン表彰式を導入。
これにより、従来の受賞者のみが参加する形式から、全応募者が参加できる開かれた式典へと大きく変革しました。
式典では、表彰の発表だけでなく、受賞者による「インスピレーショナル・スピーチ」や、活動の背景にあるストーリーが紹介され、共感と学びを生む内容に仕立てられています。
また、2020年には社会貢献の観点から、コロナ禍対応の取り組みも評価対象に追加。変化に柔軟に対応しながら、
社員の挑戦や価値創出にスポットを当てる構成となりました。
結果として、参加者アンケートでは96%が満足と回答し、「日立グループ・アイデンティティ」への共感度も97%に達するなど非常に高い効果を実現しました。
表彰制度が単なる称賛にとどまらず、グローバルな企業文化の共創を促すインナーブランディング施策として機能した好事例となっています。
日清食品ホールディングス株式会社:NISSIN CREATORS AWARD 改革プロジェクト
日清食品ホールディングス株式会社では、「創造的精神」を体現した社員・チームを称える社内表彰制度「NISSIN CREATORS AWARD」を刷新。
従来の"表彰するだけ"の枠を超え、全社員が「当事者」として参画できる仕組みを導入しました。
特に注目すべきは、表彰式そのものの再構築です。
以前は受賞結果を"生中継"するだけで、社員側には「観客感覚」が残り、受賞案件の背景やストーリーも十分に伝えきれていませんでした。
今回の改革では、「特別番組」という形で30分程度の映像コンテンツを制作。
優秀賞に選ばれたプロジェクトの裏側に密着し、受賞者のインタビューや創造プロセスをストーリー仕立てで紹介しました。
単なる結果発表ではなく、受賞者の熱量や"創造的精神"が視聴者にも伝わる演出にすることで、社内への影響力を大幅に高めました。
さらに、今年からは新たに「従業員特別賞」を新設。
これは優秀賞に選ばれた7案件の中から、従業員投票によって1つのプロジェクトが選ばれる仕組みです。
この投票は番組内で盛大に発表され、全社員が選ぶ"推しプロジェクト"を決める参加型イベントとして、AWARD全体の「自分ごと化」が加速しました。
こうした改革により、「表彰される人を称える」だけでなく、「社員一人ひとりが創造性について考える」きっかけを創出。エンゲージメントと理念浸透の両立に成功しています。
東レ株式会社:社員の心に火をつける「インナーコミュニケーション」
東レ株式会社は、2026年の創立100周年に向けて、社員一人ひとりの挑戦を促進し、イノベーションが生まれる組織風土の醸成を目指しています。
その取り組みの中核をなすのが、社内表彰制度「はじめの一歩賞」と、全社参加型の「社員フォーラム」です。
「はじめの一歩賞」:挑戦のプロセスを称える新たな表彰制度
「はじめの一歩賞」は、成果だけでなく、挑戦する意欲やプロセスに光を当てることを目的とした表彰制度です。
この制度では、活動規模の大小を問わず社員の挑戦的な取り組みを募集し、想定を上回る190件のエントリーがありました。
その中から、最も共感を集めた5件が表彰されました。
この表彰制度は、社員の挑戦行動を見える化し、称賛することで、組織全体に前向きな風土を醸成することを狙いとしています。
また、受賞者の取り組みは社内報やイントラネットで紹介され、他の社員への刺激となっています。
「社員フォーラム」:全社で未来を考える参加型イベント
「社員フォーラム」は、全国の事業場や工場16拠点をオンラインでつなぎ、社員全員が参加する大規模なイベントです。
このフォーラムでは、会社の創立100周年に向けて、どのような姿で迎えたいか、その先をどのように進みたいかを社員全員で考え、想いを共有することを目的としています。
イベントはリアルタイムでの感想投稿やアンケート回答など、参加型の仕掛けが施され、3,000人以上の社員が参加しました。
事後アンケートでは、「非常に前向きな気持ちになった」という回答が多く寄せられ、社員の参画意識の向上が確認されました。
これらの取り組みは、社員一人ひとりが主役となり、挑戦する風土を醸成することを目的としています。
今後は、グループ会社や海外拠点への展開も視野に入れ、さらなる組織風土の改革を進めていく予定です。
表彰制度設計の流れ(設計フロー)
表彰イベント前(設計導入)
社内表彰制度において、「何を褒めるか」を明確にすることは、社員のモチベーション向上につながります。
評価基準としては、売上目標達成や新規顧客獲得といった数値で測定可能な「業績」、チームワークや顧客満足度向上といった行動、専門知識やリーダーシップといった「能力」などが挙げられます。
表彰の種類は、個人表彰、チーム表彰、部門表彰、特別表彰があります。
評価期間も、月間、四半期、年間と設定することで、短期的な成果から長期的な貢献まで、幅広く評価することが可能です。
そのほか、社員の多様性を考慮し、さまざまな分野での成果や貢献を評価することが大切です。
公平性を保つために、明確な評価基準と選考プロセスを設け、表彰式や社内報などで受賞者を称えることで、褒める文化を醸成することが重要となります。
表彰イベント当日
社内表彰制度で社員を効果的に褒めるためには表彰式典の開催が重要です。
表彰式典では表彰対象者の発表、表彰状・トロフィー・記念品の授与、副賞の贈呈、スピーチ、懇親会などを実施します。対象者の功績を具体的に説明し、会社への貢献度を強調することで、社員のモチベーション向上とエンゲージメントを高めることができます。
また、表彰式典の演出も重要です。
会場の装飾、音楽、照明、映像などを効果的に活用し華やかな雰囲気を演出することで、表彰対象者だけでなく参加者全員の記憶に残るイベントにすることができます。
表彰の種類としては、業績表彰、行動表彰、アイデア表彰、永年勤続表彰など、さまざまな種類があります。
表彰の頻度も、月例、四半期、年次など、さまざまな頻度で実施することができます。
表彰対象者の選考は上司推薦、同僚推薦、自己推薦、選考委員会など、さまざまな方法があります。
また、表彰制度の周知も重要です。社内ポータルサイト、社内報、イントラネットなどを活用し、従業員に制度を周知することで、参加意欲を高めることができます。
最後に、表彰制度の効果測定も重要です。
従業員アンケート、表彰対象者のモチベーション、業績向上などを測定し、制度の改善につなげることが重要です。
表彰イベント後
表彰された社員のノウハウや成功事例を社内で共有し、活用可能な状態にするには、さまざまな方法が考えられます。
まず、社内ポータルサイトやイントラネットを活用し、受賞理由や具体的な取り組み内容を掲載することで、社員がいつでもアクセスできる状態にすることが重要です。
また、受賞者を講師とした社内セミナーやワークショップを開催することで、よりインタラクティブな形でナレッジを共有することができます。
さらに、受賞者のインタビュー記事や動画を作成し、社内報やイントラネットに掲載することで、より多くの社員に情報を届けることができます。
FAQを作成してポータルサイトに掲載したり、受賞者と他の社員が交流できる場を設けることで、疑問点を解消したり、直接ノウハウを共有する機会を提供することも有効です。
メンター制度を活用し、受賞者が他の社員を指導する体制を整えることも、継続的なナレッジ共有につながります。
これらの取り組みを組み合わせ、表彰内容をデータベース化して検索可能な状態にすることで、社員が必要な情報にいつでもアクセスできる環境を構築し、組織全体のレベルアップにつなげることが重要です。
制度設計を成功させるための3つのポイント
【目的ドリブン】設計コンセプトの明文化
社内表彰制度の設計においては、経営理念や中期経営計画、組織が抱える課題に連動させることが重要です。
これにより、社員のモチベーション向上やエンゲージメントを高め、組織全体の目標達成に貢献することができます。
表彰制度を設計する際には、まず表彰のカテゴリを選定することが必要です。
一般的なカテゴリとしては、「成果型」「行動型」「価値観型」があります。
成果型は、売上目標の達成や新規顧客の獲得など、具体的な成果に対して表彰するものです。
行動型は、業務改善提案や顧客満足度の向上など、組織目標の達成に貢献する行動に対して表彰するものです。
価値観型は会社の理念や行動規範に沿った行動や、チームワークやリーダーシップを発揮した行動に対して表彰するものです。
これらのカテゴリを組み合わせることで多様な社員の貢献を評価し、モチベーション向上を促進することができます。
【仕組みづくり】設計手順と評価の見える化
社員が納得して行動を繰り返し、その結果として成果を上げるためには誰が、どのような基準で評価を行い、
どのようにして受賞者が決定されるのかといったことを、事前に社内で明確かつオープンに共有することが重要です。
あいまいな基準や不透明な選考プロセスは、社員の不信感を招き、モチベーションを低下させる可能性があります。
逆に、評価基準と選考プロセスが明確であれば、社員は自身の努力の方向性を定めやすく、目標達成に向けて意欲的に行動できるようになります。
また、評価者についても上司や同僚など、誰からの評価が重視されるのかを具体的に示すことで社員は日々の業務の中で、誰に対してどのような行動を取るべきか、より明確に把握できるようになります。
評価基準、選考プロセス、評価者を事前に共有することで、社員の納得感を高め、行動の再現性を促進し、ひいては組織全体の成果向上につなげることが可能となります。
【運用設計】制度を回し続ける仕組みの構築
表彰制度を設計し、運用したらそこで終わりにしてはいけません。
表彰制度が社員にとって意義のあるものになり、会社全体の活性化につながるためには、PDCAサイクルを回すことが重要です。
1. Plan(計画)
表彰制度の目的、対象となる行動や成果、評価基準、表彰方法などを具体的に定めます。社員が何をすれば表彰されるのか、どうすれば評価されるのかを明確にすることで、社員のモチベーション向上と行動促進を促します。
2. Do(実行)
計画に基づいて表彰制度を実行します。社員が対象となる行動や成果を達成した場合には、公正かつ公平な評価を行い、適切なタイミングで表彰を行います。表彰は、社員の功績を称えるだけでなく、他の社員の模範となるような行動を奨励する機会にもなります。
3. Check(評価)
表彰制度の実施状況を評価します。表彰された社員のモチベーションや行動の変化、他の社員への影響、会社全体の業績への貢献度などを分析し、表彰制度の効果を測定します。アンケートやヒアリングなどを実施して、社員からの意見や要望を収集することも重要です。
4. Action(改善)
評価結果に基づいて、表彰制度の改善を行います。社員のモチベーション向上や行動促進につながらなかった点、公平性や透明性に欠ける点、運用上の問題点などを洗い出し、具体的な改善策を検討します。改善策を実施し、再度PDCAサイクルを回すことで、表彰制度を継続的に改善していくことができます。
リンクソシュールの支援
株式会社リンクソシュールでは、インナーコミュニケーションによる組織の風土・カルチャー変革を支援します。
20年以上の組織人事コンサルティングの実績をもとに、再現性と実行力を兼ね備えたサポートを提供しています。
社内表彰制度を「経営メッセージを体現する仕組み」とするための設計だけでなく、エンゲージメント向上・理念浸透・行動変容を実現するための企画・運用・社内発信まで、ワンストップでご支援します。
まとめ:企業が果たすべき責任と次のステップ
社内表彰制度の成否は、単に制度を確立するだけでなく、それをどのように設計し、運用していくかにかかっています。
設計は、経営陣の意図やビジョンを社員に伝えるためのコミュニケーション戦略として機能するものであり、組織文化や社員の行動、そして最終的には企業の成果に大きな影響を与えます。
明確な設計基準、設計フロー、そして設計評価に基づいて、継続的に制度を設計・改善していくことが重要です。
これにより、社員のエンゲージメントを高め、組織全体の目標達成に向けた意識統一を図ることができます。
また、社員のパフォーマンス向上や、組織文化の醸成にもつながります。
効果的な社内表彰制度は、社員のモチベーションを高め、組織への貢献意欲を促進するだけでなく、企業の成長を加速させる原動力となります。
FAQ(よくある質問)
Q1. 表彰制度の設計って、最初に何から始めればいいですか?
最初に取り組むべきは、「なぜこの制度を導入するのか?」という設計目標の明確化です。
経営方針や人材戦略と結びつけて目的を言語化し、評価基準や運用方針の土台をつくります。
Q2. 評価や選定の透明性をどう担保すればいいですか?
設計基準・設計ガイドラインを事前に明文化し、社員に共有することが鍵です。
選定フローや評価者の役割を明確にし、プロセス全体を見える化することで納得感が高まります。
Q3. 表彰後、制度が一過性で終わらないようにするには?
表彰制度を"回る仕組み"にするには、設計評価と設計改善のフェーズが不可欠です。
受賞者インタビューの発信、受賞行動のナレッジ共有、エンゲージメントスコアの推移などを活用し、次年度の制度に反映させましょう。